Manji

卍|百と卍

トップノートから、ベースに使われた白檀びゃくだんの、お香のような古典的な香りが立ち昇ります。
そこに、桂皮シナモンの爽やかな刺激を持つ甘みが広がり、品のある魅惑的な香りが広がります。風流を知り尽くした粋な伊達男だておとこのイメージです。
さらに、菖蒲水仙フリージアかぐわしい甘さがひっそりと香り、卍の洗練された振る舞いのように、より美しさが際立ちます。
篠笛しのぶえを指南するようになって磨きがかかった「桂男かつらおぶり」が思い浮かぶような、気障きざでいて全く隙のない、雅やかな香りです。

ミドルノートになると、丁子クローブの痺れるような刺激的な香りが加わります。火消しあがりのがらっぱちさが小気味よく、勇み足の江戸っ子らしい、血気盛んな様子が思い浮かびます。また、どことなくスモーキーなニュアンスもあり、まとい持ちの卍が浴びた火事場の煙や火消したちの熱気を思わせます。
一方で、匂天竺葵ゼラニウムの渋みも混ざり、完璧に見えた卍の、惚れたが故の脆さを覗かせます。過去に囚われ身動きがとれない、しかしその清濁せいだく捨てきれない様がますます江戸っ子らしい、そんなほろ苦い香りです。

ラストノートは、トップから香っていた白檀びゃくだんが、よりはっきりと現れます。麝香ムスクの柔らかさをまとった芳香は、筋を通し切り未来を見据える卍の落ち着いた様子を感じさせます。お百の愛情に支えられ、浅草で堂々と生きていくことを決意した彼の、憑き物が落ちたような穏やかな笑顔が思い浮かぶようです。
また、どことなく香るまろやかな甘みは、お百のフレグランスにも使われているバニラの香りです。やさしい甘さが、お百に抱きしめられた移り香のように、ほんのりと香っています。

卍のフレグランスは、和の象徴のような、香木や香辛料の豊かな香りが印象的で、お百が見惚れる鯔背いなせな卍のイメージです。
お百のフレグランスと合わせると、白檀びゃくだんの香りや丁子クローブの刺激が落ち着き、お百がいることでやっと息ができるようになった卍の姿を感じられます。